2015年10月11日日曜日

ハーレー日本人デザイナー ダイス・ナガオ氏インタビュー #04 Fin

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■自分のすべてをこのアイアンに注ぎ込めた
 ――2016年モデルについて、XL883Rがモデルラインナップから消えたことも日本では話題にのぼりました。
そこに関しては、合理的な考え方からの結論ですね。日本とヨーロッパで人気を得ていたモデルでしたが、世界全体を見渡したとき、やはりアメリカ本土が占める割合が大きく、そのアメリカで支持されなかったゆえのカタログ落ちでした。
確かにアイアンだと、XL883Rのようなバンク角を持つことはできませんが、前後サスペンションのアップグレードでそこに匹敵する性能を持たせられるんじゃないか、という可能性を追求したいと思っています。フロントブレーキもシングルディスクであることにこだわったんです。

――というと?
デザイン上、足すのは結構簡単なんですが、引くのは難しい。13スポークホイールを9スポークホイールにしたのと同じ考え方です。実はこのアイアン開発に際して、ヨーロッパから「ダブルディスクにしてくれ」という要望があったんです。でも、アイアン本来のデザイン性が損なわれてしまうことから、「我々は9スポークホイールのシングルディスクで行く」と強く意思表示しました。
それに、一昨年から導入された新ブレーキングシステムはシングルでも十分なストッピングパワーを生み出せるんです。そこもシングルを押し通すうえでの大きな要素となりました。
一般の人の想いだけでデュアルにするという意味のないことよりも、シンプルさを追求したデザインに落とし込みたかったんです。

――なるほど。
ローターも2ピースに。今の時代、ソリッドのローターはあり得ないと思っているんです。それが2ピースにした理由です。
やっぱりバイクはカッコよくなきゃいけない、という自分のポリシーがありますし、アイアンのカッコよさはミニマムなところだと思うんです。こうしたコンセプトがぶれだすと、ワケがわからないバイクになっちゃうので。

――ダブルディスクにすると、ストッピングパワーがアップする反面、重さもアップします。
このバイクは重さが増えちゃいけないバイクだと思ったんです。

――ローダウンモデルでもきちんとした乗り方ができていれば、十分ライディングプレジャーが味わえると思います。
そうですね、俺もすべてのバイクが、スポーツバイクみたいな性能があって、楽しめるものだとは思っていないんですね。このバイクの性能をめいっぱい引き出してやったうえで楽しめれば、それはそれでスポーツバイクだと思うんです。
すべてのバイクがGSXRのようなハンドリングなんてできるわけがないし、同じことをやったらこの見た目は得られない。
車高があがったXL883Rとは違い、ローダウン仕様のXL883Nを預かったわけですから、そこにアレンジを加えてベストな状態にまで高めてやるのがいいと思いました。だから、ミニマムでスラムダウンではあるけども、そのなかでも気持ちよく走れるような足まわりの向上に対してしっかりアプローチできたと思います。

――その想いが、新型のアイアンに詰め込まれているんですね。
まずはカッコ良くあるべき。そのうえで、内側のグレードアップは必要です。俺もベンも、そうしたアプローチという点で意見は一致しています。そもそもベンはスポーツスターとFXRに乗っているんですよ。だから、今回のプロジェクトに対して思い入れも強かったんですね。
アイアンもフォーティーエイトも、スタイルは申し分ない。ただ、ライディングで難があることを僕らは知っていました。だから、そこを取り除いてやれば十分なアップグレードになると確信していたんです。

――“乗って楽しいバイク”にしたかった?
そうです。実際に完成した新型の2台に乗って、楽しかったんですよ。峠にも走りに行きましたが、以前のものよりも楽しめました。そして疲れなかったんですよ。フォーティーエイトなんて、変化が顕著でしたね。

――「疲れる」ということですが、それはローダウン仕様のサスペンションが底付きし、その衝撃がダメージとして体に蓄積されていったことからでしょうか。
そうですね。やっぱりバイクに乗って疲れるというのは、ストレスですよね。
新型のアイアンやフォーティーエイトは、これまで無理しながらクリアしていたコーナリングでも、平気な顔をしてラクラク走り抜けていけるんです。見た目も今までどおり。

――納得の仕上がりだと?
ええ、自分が出せるものはすべて出せたと思いますし、エンジニアやマーケティングなど、この開発に携わったすべてのメンバーが高いレベルで納得できた仕上がりだと思っています。

――本日は貴重なお話を伺えて、ありがとうございました。


【インタビューを終えて――筆者雑感】
「日本で受けた取材のなかで、もっとも話を引き出された人だった。彼はハーレーを愛してくれているね」

後日、ハーレーダビッドソンジャパンの方よりダイスさんがそう言っていたと教えていただき、感無量でした。決して何かを狙っていったわけでもなく、「本社の新型モデル開発者に直接話を聞けるまたとないチャンス」と、ただワクワクしていっただけの物好きの質問の嵐に、真摯に答えてくれたダイスさんには感謝してもしきれません。

XL883R(通称パパサンアール)がカタログ落ちし、日本のスポーツスターフリークを大いに落胆させた2016年モデル。そのことについてはマーケットに対するカンパニーの答えとして受け止めざるを得ないことかと思います。一方、ダイスさんをはじめとするカンパニーのデザイナーたちは、ハーレーダビッドソンへのリスペクトの念を忘れることなく、与えられた課題に対して「スポーツスターとはいかにあるべきか」を突き詰め、今回の新型モデルを送り出してきました。フォーティーエイトとアイアン、それぞれに彼らの想いが詰まっていることは、乗ることでしっかりと味わうことができたと思います。

今回のインタビューでもっとも印象に残ったダイスさんの言葉は、「愛がないじゃないですか」でした。そうか、彼も自身の仕事に愛をもって取り組んでいるんだと、ハーレーに乗るいちライダーとして嬉しい気持ちになったのです。

そんな彼に「ハーレーを愛してくれている」と言っていただけたのは、光栄の極みです。そして改めて、 「俺ってハーレーが好きなんだなぁ」って実感しました。


※本インタビューは、『ヤングマシン』ならびに『ビッグマシン』(内外出版社刊)、『スポーツスターオンリー』(造形社刊)にて掲載しております

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